病室102 episode.05
episode.05
ばあちゃん
僕の一番古いじいちゃんとの記憶には、まだばあちゃんの姿があった。僕は昔っからばあちゃん子で、父方のばあちゃんも、母方のばあちゃんも大好きだった。
よくどちらの家にも泊まりに行ってたのを覚えている。それはもう、すごい頻度で。そのころのじいちゃんは心身ともにしっかりしていて、畑仕事や、家畜をしていた。ばあちゃんはかっつり専業主婦をしていた記憶がある。まぁ、今思えば。だが。
そんな中、父方のばあちゃんがなくなった。記憶にないが、その葬式で僕は、1番泣いて、叫んで、大変だったらしい。まだ5歳の僕には身近な人が亡くなった。という、初めての体験だった。とても悲しかったと思う。今になっては、その感情も思い出せない。
それからいよいよ、僕は母方のじいちゃんばあちゃんに依存したらしい。
いつだったか、お泊まりをして、ばあちゃんと一緒に寝ていた。
「ねぇばあちゃん、これ、何のためにあるの?」
それはとても素朴な質問だった。
「これはね、寝ている間に虫に噛まれないための網だよ。」
と、優しく教えてくれたのを覚えている。
アレが何て名前なのかは知らないけど、網で作られたテントみたいなものだ。夏、蚊に噛まれないための。今ではめったに見なくなったなぁ。
その頃の僕は、動物が大好きだった。将来の夢は動物博士という訳の分からない職業を口にしていたくらいに。だから、
「蚊はなんで僕を噛むの?」
と、興味本位で質問する。
「生きるためだよ。そのために人の血を吸うんだ。ゆうも牛さんや、魚さん、豚さんを食べてるだろう?植物だってそうさ。誰だって他の生き物から何かをもらって生きている。そして、貰ったものはみんなここの中で生きてるんだよ。」
と、僕の胸のところを指でトンッてした。
5歳にはちょっとだけ難しかったけど、理解は出来た。
「なら僕、蚊に血あげたいよっ」
「ええ?」
「そしたら蚊は生きるんでしょ?」
「でも、蚊に吸われたら痒くなるよ?いいの?」
「・・・。それはいやだ笑」
これが、ばあちゃんが元気だった最後の記憶。たわいもないけど、あの頃の僕にはすごくどーってことない時間だったけど、ばあちゃんに色々教わって、叱られて、一緒に笑った。
それから数ヶ月後ばあちゃんは真っ黄色になって亡くなった。