病室102 episode.02
episode.02
立派なお孫さん
じいちゃんと並んで座るのはなかなか新鮮だ。歳の差68。共感できることも、話が合うことも滅多にない。だから僕ができるのは、じいちゃんの話を聞いてやること。
だけど、話してくれることはいつも暗いことばかり。正直まいってしまう。
体が痛い。痛い。痛い。まともに歩けない。なんでこんな体になったんだろう。耳が聞こえない。痛い。目が見えない。味がしない。ばあちゃんは逝ってしまった。痛い。孤独死はいやだ。長男帰ってこい。介護をしろ。痛い。痛い。
ああ。伝わるよ。すごく、辛さが伝わる。痛さが伝わる。それはもう、鬱陶しい程に。
学生であるが故に、受験や部活という理由でじいちゃんと向き合おうとしてなかったが、その理由も今では効果はない。僕は来年、この島を経つ。だからお世話になった人にお礼がしたい。行動で示したい。もう逃げるべきではないと、今になって考えている。まだ間に合う。そう思う。
「松岡さーん」
診療室から優しそうなお姉さんが僕のじいちゃんを呼ぶ。
はい、こっちです。と僕がじいちゃんのかわりに応える。じいちゃんきは聞こえていない。僕があっち行こう。と伝える前にお姉さんが近くに寄ってきて、じいちゃんに問いかける。
「腰痛できたの?」
じいちゃんに聞こえるように、大きく、ハッキリした声で。さすが、プロだ。じいちゃんもすぐ気づいた。
「はいはい、そうです。ここがね、」
と腰に手を当て、痛む場所と、痛み方を語る。
「これはね、12ヵ年前に、大きな事故をしてね。そのときあっちの病院にいったけどね、そこのあの先生に見てもらったんだけど、どこも悪いところはないって言ってね。ect」
こーなると長い。1から10まで説明してくれるのは親切ではなく、人との交流が楽しいから、長引かせたいからだ。
「今日は腰痛できたんだよね?診察でしょ?」
と、お姉さんはあくまで笑顔で、改めて質問した。
「ああ、そうそう。ここがね、ect」
「じゃあとりあえず行こっか!!」
その対応、正解だ。そうでもしないといつまで経っても診察できない。
そうしてお姉さんとじいちゃんは診察室に入っていった。
さて、小説でも読もう。ポケットからだしたイヤホンを耳にあて、ページをめくる。スマホのイヤホンジャックに接続し、僕の好きなプレイリストが再生される。
病院でもこうすれば僕の世界にいられる。じいちゃんから、騒音から、全てから開放される。
「なにしてるの?」
「君こそ何をする。」
右耳のイヤホンを取られた。本当、なにをしてくれる。せっかくいいところだったなに。顔を上げると、そこにはうちの高校の女子生徒がいた。成績優秀スポーツ万能。口がうるさいのが玉に瑕だか、明るくて、世間でいうところの、いい人。だ。
「私はおばあちゃんの付き添い。」
「へー。僕はおじいちゃんの付き添いだよ。」
「さっきからみてたけど、なんか、やるじゃん」
ニヤニヤしてそういった。
「なにが?」
「ちゃんとおじいちゃんのこと見てあげてるしさ。コケそうなところ支えてたよねー。」
「それは君も同じだろう。」
「いやいや〜」
と笑顔で続けて、私は付いてきてるだけだもん。と謙遜する。さらに続ける。
「立派なお孫さんだね」
「それは、ないよ。」
うん。断じてそれはない。
「じゃ、私いくね。」
と手を振って、そのおばあちゃんとやらと一緒に病院から去っていった。
立派なお孫さん。か。
やっぱり、それはないよ。